人工授精・体外受精・顕微授精で使用する薬剤

不妊治療の周期で使うすべての薬について、それぞれの働き、使うタイミング、タイで実際に目にするブランド名をわかりやすく解説します。

不妊治療を受けるすべての方にとって——すでに体外受精を経験した方であっても——薬の名前は覚えきれないほど多く感じられるものです。このガイドでは、当院で使用するすべての薬剤を、実際の診療での使い方に沿ってグループ分けしてご紹介します。

治療は大きく二つに分かれます。採卵周期(卵巣刺激、排卵の抑制、トリガー注射)と、胚移植周期(子宮内膜の準備)です。使う薬は異なりますが、目指すところは同じです——適切なタイミングで、整った子宮が、適切な胚を受け入れることです。

体外受精の卵巣刺激周期の流れ

1日目
4日目
8日目
12日目
16日目
20日目 · 採卵(OPU)
卵巣刺激
排卵抑制
トリガー
卵巣刺激 排卵抑制薬 トリガー注射
1

卵巣刺激薬——複数の卵胞を育てる

ここでの目的は、一周期で複数の卵胞を育てることです。そうすることで、受精させる卵子を複数得ることができます。卵巣刺激薬には、内服薬(錠剤)と注射薬の二種類があります。

内服の排卵誘発薬(錠剤)
Clomiphene Citrate — Ovinum, Ova-mit, Duinum
Letrozole — Femara, Letrovitae, Letrozole Alvogen

主に、自然妊娠を目指す場合、排卵が起きていないPCOSの方、人工授精(IUI)周期、または低刺激・最小刺激の体外受精で使われます。タイでは次の二種類が広く使われています。

クロミフェンクエン酸塩

SERM — エストロゲン受容体拮抗薬

視床下部のエストロゲン受容体に結合して脳に「エストロゲンが足りない」と錯覚させ、FSHの分泌を増やします。このFSHが卵胞の発育を促します。

デメリット:子宮内膜でもエストロゲンの作用を妨げるため、子宮内膜が通常より薄くなることがあります。排卵が予想より25〜50%早まったり遅れたりすることがあり、影響が次の周期まで続くこともあります。

50 mg錠 · 1〜3錠/日×5日間(月経周期3〜5日目から開始) · ブランド:Ovinum、Ova-mit、Duinum

レトロゾール

アロマターゼ阻害薬

テストステロンをエストロゲンに変換するアロマターゼという酵素を阻害します。エストロゲンが低下すると脳がFSHをより多く分泌し、やはり卵胞の発育が促されます。もともとは乳がんの治療薬ですが、卵巣刺激への適応外使用は研究によって裏付けられています。

デメリット:クロミフェンと同じく子宮内膜が薄くなるリスクがありますが、通常はより軽度です。

2.5 mg錠 · 1〜3錠/日×5日間 · ブランド:Femara、Letrovitae、Letrozole Alvogen
注射の卵巣刺激薬——ゴナドトロピン製剤
Gonal-F — Recombinant Human FSH (Follitropin alpha) 300, 450, 900 IU pens
Follitrope — Recombinant Human FSH (Follitropin alpha) 75, 150, 225, 300 IU prefilled syringes
Puregon — Recombinant Human FSH (Follitropin beta) vials, pen, cartridges
Rekovelle — Recombinant Human FSH (Follitropin delta) 12, 36, 72 mcg pens
Menopur — Human Menopausal Gonadotropins (hMG) 75 IU, 600 IU, 1200 IU multidose
IVF-M and IVF-M HP — hMG 75 IU vials
Elonva — Corifollitropin alfa 100, 150 mcg long-acting
Pergoveris — Recombinant FSH + LH (2:1) 300+150, 450+225, 900+450 IU

多くの卵胞を育てたい体外受精・顕微授精では、注射のFSH製剤が治療の中心となります。現在の製剤は大きく三つのグループに分けられます。

Gonal-F®

遺伝子組換えFSH — ホリトロピン アルファ

チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株から製造されています。投与量を調節できるプレフィルドペンで、目盛りを上げ下げして量を設定できますが、注入した後に戻すことはできません。

プレフィルドペン:300 · 450 · 900 IU · 人工授精(IUI):50〜100 IU/日 · 体外受精:150〜300 IU/日(必要に応じて最大450 IU)

Follitrope®

遺伝子組換えFSH — ホリトロピン アルファ

Gonal-Fと同じ有効成分を、使い切りのプレフィルドシリンジにした製剤です。投与量の調節はできず、シリンジに入っている量をそのまま使います。

プレフィルドシリンジ:75 · 150 · 225 · 300 IU

Puregon®

遺伝子組換えFSH — ホリトロピン ベータ

こちらもチャイニーズハムスター卵巣細胞株から製造されています。バイアル(50・100 IU、ご自身で溶解)と、Puregon専用ペンで使うプレフィルドカートリッジ(300・600 IU)があります。目盛りは前に進めるだけで、逆には回さないでください。

バイアル:50 · 100 IU · カートリッジ:300 · 600 IU

Rekovelle®

遺伝子組換えFSH — ホリトロピン デルタ

ヒト胎児網膜由来の細胞株から製造されているため、分子が天然のヒトFSHにより近いのが特徴です。投与量はIUではなくマイクログラム単位で設定します。投与量を調節できるプレフィルドペンです。

プレフィルドペン:12 · 36 · 72 mcg

Menopur®

ヒト閉経期ゴナドトロピン(hMG)

閉経後女性の尿から精製された製剤です。FSHに加えてhCGによるLH作用を含み、LHの追加が本当に必要な方に役立ちます。複数回用バイアルなので、医師が投与量を細かく指定して処方できます。

バイアル:75 IU · 複数回用:600 IU · 1200 IU · 個別調整 37.5〜300 IU

IVF-M™ / IVF-M HP™

hMG(hCG添加なし)

もう一つのhMG製剤です。タイでは75 IUバイアルのみが流通しています(国によってはIVF-M HP 600 IU複数回用も販売されています)。

バイアル:75 IU

Elonva®

持続型遺伝子組換えFSH — コリフォリトロピン アルファ

FSHにhCGの末端部分を結合させた改変型FSHです。一度の注射で7日間効果が持続するため、最初の一週間は毎日の注射が不要になります。

プレフィルドシリンジ:100 · 150 mcg

Pergoveris®

遺伝子組換えFSH+遺伝子組換えLH(2:1)

r-hFSH(ホリトロピン アルファ)とr-hLH(ルトロピン アルファ)の両方を同じペンに含む唯一の配合製剤で、LHの補充が本当に必要な方に使用します。

プレフィルドペン:300+150 · 450+225 · 900+450 IU
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排卵抑制薬——卵子を卵巣内にとどめる

早発排卵の防止 — GnRHアンタゴニスト(Orgalutran、Cetrotide)と黄体ホルモン製剤(Utrogestran、Provera、Duphaston)
図4. 二種類の排卵抑制薬 — GnRHアンタゴニストと黄体ホルモン製剤。

卵胞が育つとエストロゲンが上昇し、脳はLHサージを起こそうとします。そうなると、採卵の前に排卵が起きてしまいます。これを防ぐため、次の二種類のいずれかを使います。

Orgalutran®

GnRHアンタゴニスト — ガニレリクス

GnRH受容体を直接ブロックするため、LHサージが起こりません。プレフィルドシリンジなので、取り出して注射するだけです。

250 mcg(0.25 mg)プレフィルドシリンジ

Cetrotide®

GnRHアンタゴニスト — セトロレリクス

同じ種類の薬剤です。バイアルと溶解液のセットで、注射の前に溶解します。

250 mcg(0.25 mg)バイアル

黄体ホルモン製剤(PPOS)

プロゲスチン併用卵巣刺激法(PPOS)

プロゲステロンは、経口避妊薬と同じようにLHサージを抑えます。PPOSでは、黄体ホルモン製剤を使って早発排卵を防ぎます。よく使われるのはProvera、Duphaston、Utrogestan、Cerazette、Visanne(ジエノゲスト)です。

3

トリガー注射——予定どおりに卵子を成熟させる

トリガー注射 — GnRHアゴニスト(Decapeptyl、Diphereline)とhCG(Ovidrel、IVF-C)
図5. トリガー注射 — GnRHアゴニストとhCG製剤。

卵胞が適切な大きさに育ったら、卵子が最終的に成熟して採取できる状態になるよう、合図を送る必要があります。方法は二つです。

Decapeptyl

GnRHアゴニスト — トリプトレリン

プレフィルドシリンジ。ご自身の下垂体から短時間にLHサージを起こします。OHSSのリスクが高い方に有用です。

0.1 mgプレフィルドシリンジ

Diphereline®

GnRHアゴニスト — トリプトレリン

同じアゴニストの作用機序で、バイアルを溶解して使用します。

0.1 mgバイアル

Ovidrel®

遺伝子組換えhCG — コリオゴナドトロピン アルファ

hCGはLHと同じ受容体に結合し、天然のLHより長く作用します。そのため、単回投与で確実に排卵を誘発できる方法です。

250 mcgプレフィルドペン

IVF-C

尿由来hCG

尿から精製したhCGです。バイアル製剤で、筋肉注射で投与します(以前のブランドであるPregnylは、現在タイでは販売されていません)。

5000 IUバイアル
4

胚移植周期——子宮内膜を整える

凍結融解胚移植(FET)では、通常二種類のホルモンだけを使います。周期の前半にエストロゲンで子宮内膜を厚くし、後半にプロゲステロンで胚を受け入れられる状態にします。

エストロゲン——子宮内膜を育てる
子宮内膜を整えるためのエストロゲン製剤 — 経口(Estrofem、Progynova、Postmenop)と経皮(Oestrogel、Estrodose、Climara、Divigel)
図7. タイで販売されているエストロゲン製剤 — 経口錠と経皮ジェル・パッチ。

錠剤、経皮ジェル・パッチ、腟用製剤があります。投与経路によって違いがあり、経口のエストロゲンはまず肝臓で代謝されるため、子宮に届くのは経口投与量の10〜20%にとどまります(一般的な経口投与量は4 mg/日)。経皮(皮膚から)の場合は70〜80%が届きます。

Estrofem

経口 · エストラジオール半水和物
1 · 2 mg錠

Progynova

経口 · エストラジオール吉草酸エステル
1 · 2 mg錠

Postmenop

経口 · エストラジオール吉草酸エステル
2 mg錠

Oestrogel

経皮 · 0.06% 17β-エストラジオール
毎日皮膚に塗布

Estrodose

経皮 · 0.06% 17β-エストラジオール
毎日皮膚に塗布

Climara 50

経皮パッチ · エストラジオール半水和物
3.8 mgパッチ、毎週貼り替え

Divigel

経皮ジェル · 17β-エストラジオール 1 mg/g
毎日皮膚に塗布
プロゲステロン——胚を迎え入れる
子宮内膜の準備と黄体補充のためのプロゲステロン製剤 — Cyclogest、Utrogestran、Endometrin、Crinone、Duphaston、Proluton
図9. タイで販売されているプロゲステロン製剤 — 腟用製剤(v)、経口(o)、筋肉注射(m)。

経口のプロゲステロンは体内で大量に代謝されるため、吐き気やめまいを起こすことがあります。そのため当院では主に腟用製剤と筋肉注射を使用しています。ジドロゲステロン(Duphaston)は合成の黄体ホルモンで、こうした副作用が少なく、内服で使うことができます。

Utrogestran

微粒子化プロゲステロン
100 · 200 mg腟用カプセル

Cyclogest 400

微粒子化プロゲステロン
400 mg腟坐剤

Crinone 8%

微粒子化プロゲステロンジェル
腟用ジェル(アプリケーター)

Endometrin

微粒子化プロゲステロン
100 mg腟錠

Duphaston

ジドロゲステロン(経口)
10 mg錠

Proluton Depot

ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル
筋肉注射 · 持続型
移植後にプロゲステロンが実際に果たす役割:子宮内膜を増殖期から胚を受け入れられる状態(分泌期)へ変化させ、内膜をやわらかくして胚が着床できるようにし、子宮の収縮を抑え、局所の免疫反応のバランスを整えます。
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補助薬とその他の薬剤

経口避妊薬(COCP)
体外受精の周期前に使う経口避妊薬 — Marvelon、Mercilon、Diane-35、Yasmin、Yaz、Belara、Natazia、Microgynon-30ED
図11. 周期の調整や残存嚢胞の抑制に使う経口避妊薬のブランド。

月経周期を整えたり、残っている嚢胞を抑えたりするために、周期の前に処方することがあります。タイでよく見られるブランドはMarvelon、Mercilon、Diane-35、Yasmin、Yaz、Belara、Natazia、Microgynon-30EDです。

その他の補助薬 — Visanne、Parlodel、Metformin
図12. 子宮内膜症(Visanne)、高プロラクチン血症(Parlodel)、インスリン抵抗性(Metformin)に使う補助薬。

Visanne

ジエノゲスト 2 mg

子宮内膜症やチョコレート嚢胞に使用します。活動性の病変を落ち着かせるため、体外受精の周期の前に使うことがよくあります。

Parlodel

ブロモクリプチン 2.5 mg

高プロラクチン血症に使うドパミン作動薬です。プロラクチンが高いと排卵が抑えられることがあります。

Metformin

インスリン抵抗性改善薬

インスリン抵抗性のあるPCOSの方に使用します。排卵の回復を助け、卵巣刺激への反応を改善します。

500 · 850 mg · 1000 mg徐放錠(XR)

出典と参考資料

本記事は、Dr. Patsama Vichinsartvichai, MD, EFOG-EBCOG, EFRM-ESHRE/EBCOG, FACOG, MClinEmbryolによるタイ語の記事「ยาที่ใช้ในการรักษามีบุตรยาก IUI IVF ICSI มีอะไรบ้าง? แต่ละตัวทำงานอย่างไร?」を翻案したものです。ブランドや投与量の情報は執筆時点でタイで販売されている製品に基づくもので、変更される可能性があります。必ず処方した医師の指示に従ってください。

キーワード:ゴナドトロピン · IVF · ICSI · GnRH · LH · FSH · エストラジオール · プロゲステロン · GnRHアゴニスト · GnRHアンタゴニスト · dipherelin · トリプトレリン · ガニレリクス · セトロレリクス · orgalutran · cetrotide · gonal-f · puregon · rekovelle · follitrope · menopur · IVF-M · IVF-C · Ovidrel

Dr. Patsama Vichinsartvichai

著者について

Dr. Patsama Vichinsartvichai, MD, MClinEmbryol, EFOG-EBCOG, EFRM-ESHRE/EBCOG, FACOGは、生殖内分泌・不妊症の認定専門医です。Navamindradhiraj大学Vajira病院IVFユニットの元責任者で、バンコクのLIFE by Dr. Patの創設者です。形態異常(T字型)子宮と子宮因子による不妊症を中心に研究を発表しています。

Patsama医師のプロフィール →
LINE WA